画室より

ミネアポリス美術館のガイド・Tomさんが子どもたちに作品を紹介してくれた

《白息(英題:White Breath)》(2011)

少し遡って4月の終わりのこと。アメリカから一通のメールが届きました。
送り主はミネアポリス美術館(Minneapolis Institute of Art)でボランティアガイドをされているトム・カールソン(Tom Carlson)さんという方。メールにはこう書かれていました。

──
I am showing your art, “White Breath,” to second grade students at the Minneapolis Institute of art on May 1. It is part of a tour on Japanese art. They are studying Japanese culture in school.
Is there anything you would like me to say to the students about “White Breath”?


(以下は和訳です。)
私は5月1日に、ミネアポリス美術館で《White Breath》というあなたの作品を、2年生の児童たちに紹介します。これは日本美術をテーマとしたツアーの一部で、彼らは学校で日本の文化について学んでいるところです。もし《White Breath》について子どもたちに伝えてほしいことがありましたら、ぜひ教えてください。
──

こんなふうに遠く離れた場所から、子どもたちに向けて作品を紹介してくださるというご連絡をいただいたのは初めてのことです!

私の作品《白息(英題:White Breath)》は、2011年に制作したものです。当時在籍していた描画・装飾研究室で、恩師・中島千波先生が大作発表の機会として設けてくださった展覧会「ShinPA」のために描いた作品で、おぶせミュージアム・中島千波館にて初めて展示されました。その後、ご縁があってニューヨークのDillon Galleryで展示されたことをきっかけに、カリフォルニア州にあった私設の美術館、クラーク日本美術文化センター(Clark Center for Japanese Art)に収蔵されました。それから同センターの閉館にともない、2013年にミネアポリス美術館(Minneapolis Institute of Art)へと寄贈されたようで、現在は同館のアジア美術ゾーンの一角に展示されています。

▼ MIAのコレクションページ:
https://collections.artsmia.org/art/117005/white-breath-kato-yuwa

Clark Center for Japanese Artの所蔵品を紹介した2002-2003年の日本巡回展の図録。私はこの展覧会には関わっていませんが、日本語で紹介された資料が見つからなかった為、古書で入手しました。

子供たちに自分の言葉が届くと思うと、少しの緊張と、なんとも言えない喜びが混じり、どきどきとしました。どんなふうに伝えたらいいだろうかとよく考えて、作品に込めたコンセプトをまとめて返信しました。

──
White Breath》では、寒さの中を歩きながら白い息を吐く女性たちを描きました。ごく普通の冬の日の情景です。
よく見ると、左端の女性が巻いている動物の形をしたマフラーも、こっそり白い息を吐いています。これは私なりのちょっとした冗談で、気づいてくすっと笑ってもらえたら嬉しいなと思って描きました。

──

するとすぐに、トムさんからとても丁寧な返信が届きました。言葉の端々からアーティストへの敬意と、子どもたちへの誠実なまなざしが伝わってきて、なんと素敵な方なのだろうと、心がじんわり温かくなりました。

実は私はこれまで、自分の作品がその美術館でどんなふうに展示されているのかを見たことなく、いつか見てみたいと願っていました。こんなお願いをしてもよいものかと迷いつつ、思い切って「展示風景の写真を撮っていただけませんか」とお尋ねしたところ、なんとトムさんは快く引き受けてくださったのです。そして後日、ツアーの様子と共に、私の作品が展示されている写真を何枚か送ってくださいました。

©Photo by Tom Carlson, taken at the Minneapolis Institute of Art(撮影:トム・カールソン氏/ミネアポリス美術館にて)
※他アーティストの作品も一部写り込んでおりますが、展示風景の記録として、そのままの様子を掲載しております。

こんなふうに飾られているなんて感激です。
送っていただいた写真の中には、ツアーに参加した子どもたちとトムさんが、私の絵の前に集まってくれているものもありました。子どもたちとトムさんが絵の中の女性の仕草を真似て、息を吐くポーズをしている写真も!無邪気だったり、少しはにかんでいたり、表情やポーズを一生懸命に再現していたり…。なかには、私が集合写真でついやってしまう「隣の人の頭の背後に、二本角のようにピースを乗せる」ポーズをしている子まで!(親近感がわきます)
みんなそれぞれで、本当に可愛らしくて仕方ありません。ここではプライバシーの観点から掲載は控えますが、それは私のアルバムの中の、大切な写真となりました。見返す度にとっても幸せな気持ちになります。

©Photo by Tom Carlson, taken at the Minneapolis Institute of Art(撮影:トム・カールソン氏/ミネアポリス美術館にて)

以下は、写真を送ってくださった際に、トムさんが添えてくださったメッセージの一節です。あまりに素敵だったので、ご本人の許可をいただき、原文と訳を併せてご紹介します。

──
Here is a picture of the students who I was privileged to share your art with. I greeted the children from you, and talked about your picture. I asked them what season of the year it was, and they immediately replied “winter.” I asked them how they knew it was winter and they said, “Because of the white coming out of their mouths.” They enjoyed your art so much, and we talked about it for a long time. They particularly enjoyed the white breath coming out of the mouth of the animal-shaped scarf.
In the second picture, I and the students are pretending that we are breathing out some white breath of our own.
Thank you for inspiring these students.

(以下、和訳)
こちらは、あなたの作品を紹介する機会に恵まれた子どもたちの写真です。子どもたちにあなたからの挨拶を伝え、作品について話しました。
「これは一年のうちどの季節でしょう?」と尋ねると、すぐに「冬!」と答えました。どうして冬だとわかるのか尋ねると、「口から白い息が出ているから」と教えてくれました。
みんな作品をとても楽しみ、長い時間その話で盛り上がりました。特に、動物の形をしたマフラーから白い息が出ている様子を気に入っていました。
二枚目の写真では、私と子どもたちが自分たちも白い息を吐いている真似をしています。
この子どもたちにインスピレーションを与えてくださり、ありがとうございます。

──

なんて嬉しいメッセージでしょう!トムさんのメッセージと写真から、子どもたちがどんなふうに作品に向き合ってくれたのかを知ることができて、本当に嬉しく思いました。私の作品が彼らの学びの一部になれたことをとても光栄に感じます。そして、心を込めて作品を紹介してくださったトムさんに、心からの感謝をお伝えしたい思いです。
遠く離れたアメリカで、好奇心に満ちてきらきらとした子どもたちが、私の絵に触れてくれたこと。とても誇らしく、幸せな出来事でした。

トムさんは、今後もまた学生たちに私の《White Breath》を紹介する予定だと伝えてくださいました。絵を描く者として、こうした経験が出来たことは本当に宝物です。

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