一くち識

一くち識 01 「都うちわ」と「京うちわ」の​関係

《茹る》2023 茹る暑さの中、都うちわで涼をとる女性ふたり。作中の都うちわは《柄柄団扇 列》《柄柄団扇 垂》いずれも2014。

この随想録に、新たに「一くち識(ひとくちしき)」という項目を設けました。
ここでは、伺ったお話や調べたことなど、美術のまわりにある「ひとくち分の小さな知識」をご紹介してまいります。どれも教えてくださった方のお話のなかに、伺えたこと自体が貴重に思えるものや、知識の引き出しにそっと仕舞っておきたくなるような面白いことがあり、私自身が「これは是非お伝えしたい」と感じることばかりです。今日は、その第一回目です。

少し遡って5月29日、「団扇に描く《都うちわ ふう》」という記事を綴りました。さて、この「都うちわ」。「京うちわ」とは何が違うのでしょうか。どちらの言葉も耳にしたことはあっても、その違いまでご存じの方は、案外少ないのではないでしょうか。この二つの違いについて、先程の記事の中で少しご紹介した京都の塩見団扇さんに、改めてお話を伺ってみました。

壁掛けにも使える団扇立てに、涼し気な朝顔柄の片面透かしの京うちわ。(画像引用元:株式会社塩見団扇)

実は、「京うちわ」​というのは一定の条件を満たした団扇だけに認められる名称なのだそうです。

――「京うちわ」の名称表示ができるのは、全て国産材料を使い、京都を中心として国内で生産された商品のみに限られ、京都扇子団扇商工協同組合に加盟する工房・販売店だけが使用できるものです――(京都扇子団扇商工協同組合公式ウェブサイトより)。

一方、それ以外の、構造としては同じつくりの団扇。製作に携わる方々のあいだでは、こちらを「都うちわ」と呼んでいるのだと伺いました。

桔梗とススキの切り絵、片面透かしの京うちわ。傍らに置きたい上品な一本。(画像引用元:株式会社塩見団扇)

今回描くに当たって私が塩見団扇さんにお願いした白無地の団扇は、竹の骨のみ中国産で、それ以外の素材はすべて国産​というもの。加工​もすべて塩見団扇さんの工房で手掛けられているとのことでした。つまりこちらは、「都うちわ」にあたることになります。

塩見団扇さんの白無地の都うちわ。

「京うちわ」という名称は、伝統と産地を守るために商標登録されたものだそうですが、正確な規定についてはまだ広く知られているとは言えず、少しずつその理解を広めている段階とのこと。「京扇子」についても同様なのだ​そうです。

塩見団扇さんでは勿論、「京うちわ」の製造もされていますが、そちらはやはり、価格もぐっと上がるのだとか。とはいえ、塩見団扇さんの団扇はどれも、一枚一枚を職人さんが丁寧につくられているもの。いずれもその上質さに変わりはありません。

塩見団扇さんのオリジナル《角扇 ダイヤ》。放射状の骨を生かす巧みな柄。視覚からも涼感が。(画像引用元:株式会社塩見団扇/以下全て)

《角扇 チェック》。とってもモダンで、明るいデザイン!


それでもやはり、​京都の伝統がより濃く宿る「京うちわ」には、心惹かれるものがあります。伝統の技術を礎に、現代の暮らしに寄り添う感覚で、モダンな角扇や京野菜の形をした愛嬌ある団扇なども生み出されている塩見団扇さん。京都を訪れる機会があれば、​是非工房にも立ち寄らせていただいて、​そのような団扇がどんな佇まいなのか、そこからどんな風が来るのか。それぞれの団扇を自分の手と目とで感じてみたいと思いました。

こちらも塩見団扇さんのオリジナル《やさいうちわ/京やさい 聖護院かぶら》。なんともおいしそうです。

《やさいうちわ/京やさい 加茂なす》コロンとした形の、瑞々しいブルー。採れたての加茂なすを思わせる愛らしさ。

最後になりましたが、今回お話を聞かせてくださった塩見団扇さんに、心より御礼申し上げます。
温かなご対応のもと、知らなかったことを一つひとつ教えていただきました。

※画像は許可を得て掲載しています。ご快諾くださった塩見団扇株式会社様に、心より感謝申し上げます。

塩見団扇株式会社
〒607-8258 京都市山科区小野西浦町24-3
公式ウェブサイト|https://www.kyoto-fan.co.jp

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