画室より

団扇に描く《息うちわ ふう》

《息うちわ ふう》 顔のアップ

7月の展示に向けて、団扇を1枚仕上げました。

団扇に絵を描くようになったのは、10年ほど前に参加した団扇の展示がきっかけです。その際、制作用に送られてきた白無地の都うちわを見て、こういう形のものもあるのかと面白く感じたのを覚えています。都うちわそのものは、京都を訪れた際などにどこかで目にしていたはずですが、無地のものをじっくり見るのはそのときが初めてでした。

都うちわは、いわゆる団扇と聞いて思い浮かべる、柄から伸びた骨組みの一部が見えているものとは異なり、持ち手部分が「差し柄」になっているのが特徴です。後から柄を差し込む作りなのです。

画室に残してあった別の都うちわ。柄の部分は工房によって少しずつ形が違うよう。こちらは“こけしの頭”が少し面長美人さん。

当時、その柄がこけしのような姿に見え、この部分がこの団扇の主役だと感じました。紙の貼られた面(「頭(あたま)」と呼ぶそうです)をただの画面とせずに、この柄の存在も生かして描きたいと思ったのです。

そこで、見えたままに柄に顔を描いてこけしのようにし、同じものを「頭」の部分にも並べて描きました。名付けて、《柄柄団扇(えがらうちわ)》。柄(え)の柄(がら)という、ちょっとした言葉遊びでもあります。このこけしのような彼女にまだ名前はなく、「柄(え)」にちなんで「○○え」さんという名を思案中です。

左《柄柄団扇 垂》と、右《柄柄団扇 列》 いずれも2014

さて、今回描く白無地の都うちわは、京都の団扇工房、塩見団扇さんにお願いしました。工房に直接注文するのは初めてのことでしたが、ご厚意で、まだ柄を取り付けていない状態、つまり「頭」と「柄」とを分けて納品してくださいました。

別々に納品していただいた「頭」と「柄」。それぞれ、国産の和紙と杉を使用されているそうです。

これが大変にありがたく、一体になっている状態よりも格段に描きやすく感じました。
また、描き入れる前に行う柄の表面のやすりがけもしやすくなり、とても助かりました。柄に頭が接していないため、紙を傷つけないように気を遣う必要がなく、存分にやすって滑らかに磨き上げることができたのです。

やすりがけをして、柔らかみを帯びた柄たち。塩見団扇さんの“こけしの頭”は少し丸っこくて可愛い形。

今回描いたのは、持ち手を上にした都うちわを子供の顔に見立てた作品です。このように逆さに眺める都うちわは、丁髷を結った、ふっくらほっぺの子供にそっくりです。

《息うちわ ふう》の正面から見た姿。柄の部分を、丁髷結びとリボンに見立てました。

見立てをしたのは見た目ともう一つ、風の感触。扇いだときに届く風、これを子供がいたずらっぽく「ふう~」と吐く、可愛らしい息と重ねました。

題して《息うちわ ふう》。思いっきり扇ぐというよりは、そよそよと柔らかい風を送ってほしい、そんな団扇です。

後ろ姿です。ふうちゃんと呼ぶことにましょう。

こちらは、現在取りかかっている《息うちわ はあ》と対に飾れるように、西荻窪にある数寄和さんに団扇掛けを仕立てていただく予定です。

数寄和さんはいつもお世話になっている表具屋さん。ここで団扇掛けを仕立ててもらうことも、私の楽しみの一つです。そのときの様子も、今度また綴れたらと思っています。

こんな
記事も
あります

PAGE TOP